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論文記事:地域在住高齢者のその後の累積介護費は直線的に増加するのか 202404-02 | 一般財団法人厚生労働統計協会|国民衛生の動向、厚生労働統計情報を提供

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論文

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第71巻第4号 2024年4月

地域在住高齢者のその後の累積介護費は直線的に増加するのか

-フレイル,要支援・要介護リスク評価尺度を用いたJAGES9年間の追跡調査より-

渡邉 良太(ワタナベ リョウタ) 斉藤 雅茂(サイトウ マサシゲ)
井手 一茂(イデ カズシゲ) 近藤 克則(コンドウ カツノリ)

目的 内閣府は成果連動型民間委託契約方式の重点分野として介護領域を挙げているが,その財政評価方法が課題となっている。介護予防により抑制される累積介護費が直線的に増えるとすると,事業期間は短期でもよいが,指数関数的に増える場合,短期間では過小評価となる。本稿では,財政評価を行う際の妥当な追跡期間を検討するために,フレイル該当有無,要支援・要介護リスク評価尺度高低によるその後の累積介護費の差が直線的に増加するのか追跡期間別に検証する。

方法 日本老年学的評価研究(JAGES)の2010年度の3県5市町の要介護認定を受けていない高齢者を対象とした自記式郵送調査の一部をベースラインとした。有効回答者21,614人の2019年12月までの9年間(108カ月間)の1人当たりの累積介護費を介護保険給付実績情報に基づいて算出した。ベースライン時点のフレイル(7点以下を非該当,8点以上を該当),要支援・要介護リスク評価尺度(16点以下を低群,17点以上を高群)は,基本チェックリストおよび性,年齢を用いて評価した。累積介護費を追跡期間別に記述し,フレイル該当有無,要支援・要介護リスク評価尺度高低群間の差および1年目の差に対する倍率を算出した。なお,追跡期間中の死亡者(5,108人)に限定することで「生涯介護費」についても分析した。

結果 ベースライン時点のフレイル該当者は4,299人(19.6%),要支援・要介護リスク評価尺度高群は6,051人(28.0%)であった。フレイル該当有無群間の1人当たりの累積介護費の差は1年後を1.0倍(1.2万円)とすると,3年後には11.8倍(14.0万円),6年後には46.4倍(55.4万円),9年後には86.5倍(103.2万円)になった。同様に,要支援・要介護リスク評価尺度高低の差は1年後を1.0倍(1.3万円)とすると,3年後は13.7倍(18.1万円),6年後には56.8倍(75.1万円),9年後には115.1倍(152.0万円)になった。追跡期間中の死亡者に限定した生涯介護費としてもフレイル該当者,要支援・要介護リスク評価尺度高群では,全対象者と同様に累積介護費が高かった。

結論 ベースライン時点でのフレイル該当有無,要支援・要介護リスク評価尺度高低によるその後の累積介護費の差は追跡期間が長くなるほど大きくなり,1年後を基準とすると9年後には86~115倍もの差があった。直線的な関係ではないため,短期間で差をみることは相当の過小評価となりえる。財政評価には適切な追跡期間を設定する必要が示唆された。

キーワード 成果連動型民間委託契約方式,介護保険,介護予防

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