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論文記事:日本における終末期医療の変化 202504-04 | 一般財団法人厚生労働統計協会|国民衛生の動向、厚生労働統計情報を提供

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論文

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第72巻第4号 2025年4月

日本における終末期医療の変化

-NDBの解析から-

井上 雅博(イノウエ マサヒロ) 西垣 昌和(ニシガキ マサカズ) 高橋 泰(タカハシ タイ)

目的 本研究では,日本における終末期医療の実施状況の変化を,NDB(匿名医療保険等関連情報データベース)を用いて分析し,特に終末期を迎えた高齢者に高齢者医療の一環として行われる頻度の高い医療的処置を指標として調査する。また,これらの変化に影響を与えた社会的な因子についても検討する。

方法 本研究では,NDBオープンデータの第1回(2014年度)から第9回(2022年度)までのデータを用いて,胃ろう造設術,中心静脈カテーテル挿入,気管切開術,シャント造設術の実施件数の推移を分析した。NDBの開示には制限があるため,実施件数が10件未満のデータは除外し,中心静脈カテーテル挿入の実施については公開されている2015年度以降のデータを使用した。さらに,新聞やメディアにおける終末期医療についての報道件数について検討した。

結果 胃ろう造設術は,2014年度の64,358件から2022年度には51,622件へと大幅に減少した。特に高齢者の実施件数の減少が顕著であった。中心静脈カテーテル挿入は,2015年度の629,261件から2022年度には586,476件へと減少したが,在宅医療において汎用されるPICC(末梢留置型中心静脈カテーテル)の使用は大幅に増加した。気管切開術も2014年度の33,719件から2022年度の28,042件へと減少した。また,維持透析に必要なシャント造設術も減少を示した。さらに,在宅死や訪問診療の報道には大きな変化はみられなかったが,人生会議のみは報道件数が増加していた。

結論 NDBオープンデータから,約10年間でわが国の高齢者医療において必要とされる胃ろう造設術や気管切開術の実施件数が減少していることが明らかになった。この背景には,終末期における延命治療に対する国民の意識の変化や,在宅医療の普及,さらにコロナ禍が終末期医療の選択に影響を与えた可能性が示唆される。今後,医療現場では患者の希望に寄り添うため,終末期医療について十分な情報提供が求められる。

キーワード 終末期医療,高齢者医療,NDB,胃ろう造設術,中心静脈カテーテル,気管切開術

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