論文
第72巻第5号 2025年5月 医師の時間外・休日労働時間の上限規制開始後
|
目的 医師の長時間労働是正のために,改正労働基準法により,2024年4月以降はそれまでは猶予されていた医師に対しても時間外・休日労働時間の上限規制が適用されるようになった。本研究の目的は,その新たな規制開始後における山口県内すべての病院の36協定の実態と課題を明らかにすることである。
方法 対象は山口県の全139病院とした。2024年5月7日付けの行政文書開示請求書を山口労働局へ郵送し,各施設から2023年度および2024年度に届け出された36協定を入手した。
結果 36協定があるのは136施設(97.8%),調査日時点で有効期間内の36協定があるのは134施設(96.4%),36協定がある136施設中特別条項付きは62施設(45.6%)であった。「協定の有効期間」は1年間131施設,6カ月1施設,1カ月4施設であった。「協定の有効期間」の開始日を過ぎて届け出された36協定が少なくとも30施設,医師を含まない36協定が少なくとも3施設あった。特別条項適用の手続きは,労働者代表に申し入れ等の使用者の一方的な作為によるものが81.5%を占めた。1年単位の原則または特別延長時間の長い方は,長い順に1,860時間1施設,1,800時間1施設,960時間30施設であった。36協定ありの136施設中,休日労働の定めは110施設(80.9%)にあった。労働者代表の職名に労働組合を示す文字が含まれているのは20施設,そのうち過半数組合を確認できたのは5施設であった。過半数代表者の選出方法は立候補,信任投票,話し合い等様々であった。
結論 2016年の山口県の全147病院の調査と本調査の結果と比べると,有効期間内の36協定がある施設の割合はそれぞれ81.6%と96.4%,特別条項付き36協定があるのはそれぞれ20施設と62施設である。これらより山口県の病院の労使間において,36協定および特別条項の必要性の認識は近年高まっているといえる。長時間労働は労働者の健康やワークライフバランスに悪影響を及ぼすため,労働者保護の観点から特別条項適用の手続きは「労働者の同意を得る」と定めることが望ましい。過半数代表者は様々な方法で選出されていたものの,労働者の過半数がその人の選出を支持していることが明確になる民主的な手続きかどうかは不明である。長時間労働は労働者の健康を害することを考えれば,36協定の労働者側締結当事者である過半数代表者は厳格な手続きを経て選出されることが望ましい。
キーワード 労働基準法,36協定,労働時間規制,働き方改革,病院,過半数代表者