論文
第72巻第5号 2025年5月 40代,50代市民におけるゲノムリテラシーと
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目的 近年,遺伝学およびゲノム科学の進展に伴い,一般市民が遺伝学的検査を受ける機会が増えることが予想される。しかし一般市民の遺伝・ゲノムに関する知識は不十分であることなど課題も多く,人々のゲノムリテラシーの醸成が求められている。本研究では40代,50代市民を対象として,遺伝学的検査の意思決定へ影響する要因について,ゲノムリテラシーの構成要素によって明らかにすることを目的とする。
方法 40歳から59歳までの男女に対してWeb調査を実施した。調査内容は,基本属性,ゲノムリテラシーの構成要素である遺伝・ゲノム知識,ヘルスニューメラシー,相互作用的・批判的ヘルスリテラシーに加え,遺伝学的検査に対するリスク認知とベネフィット認知である。また遺伝学的検査に対する意思決定については,自分の遺伝学的検査意図と子供への陽性結果の伝達意図をビニエット形式で尋ねた。調査時期は,2021年5月であった。
結果 自分の遺伝学的検査意図,子供への陽性結果の伝達意図,ゲノムリテラシーの構成要素(遺伝・ゲノム知識,ヘルスニューメラシー,相互作用的・批判的ヘルスリテラシー)の間に関連があることが示された。またゲノムリテラシーの構成要素からリスク認知,ベネフィット認知の認知的要因を介し自分の遺伝学的検査意図へ影響を与える仮説モデルを作成してパス解析を行った結果,モデルの適合度が高かった。しかし子供への陽性結果の伝達意図のパスモデルは,自分の遺伝学的検査意図よりも適合度が低かった。
結論 ゲノムリテラシーの構成要素,リスク認知,ベネフィット認知が自分の遺伝学的検査意図へ影響することが明らかになったが,子供への陽性結果の伝達意図については他の要因をさらに検討する必要がある。
キーワード 遺伝学的検査,意思決定,ゲノムリテラシー,ヘルスニューメラシー,リスク認知,ベネフィット認知