論文
第72巻第7号 2025年7月 ヘルシーエイジングに向けた機能的能力尺度の交差妥当性の検討-JAGES2019横断データより-福定 正城(フクサダ マサキ) 西尾 麻里沙(ニシオ マリサ) 斉藤 雅茂(サイトウ マサシゲ) |
目的 WHOの提唱するヘルシーエイジングの実現に向けて,Nishioらによって,機能的能力を評価する尺度が開発された。本研究では,新たなデータセットに基づいて,機能的能力尺度の交差妥当性を検討することを目的とした。
方法 2019年度に日本老年学的評価研究機構(以下,JAGES)が実施した調査データを使用した。JAGESは,全国66市町村の高齢者を対象にした郵送調査を行い,266,453名から回答を得た(回答率69.2%)。このうち,機能的能力尺度の全24項目に欠損のない139,792名を分析対象とした。尺度の交差妥当性を検討するため,全24項目の該当割合を算出した後に,最尤法・プロマックス回転を用いた探索的因子分析を実施した。次に,構築したモデルに対して確証的因子分析を実施し,モデルの適合度を評価した。内的整合性は,クロンバックα係数を算出して検討した。該当割合と因子分析の過程においては,Nishioらのデータとの比較を行った。
結果 機能的能力尺度24項目の該当割合をNishioらのデータと比較したところ,最大で14.8ポイント変動している項目もあるが,24項目中18項目は5ポイント未満の変動であった。探索的因子分析の結果,固有値1以上の基準に基づき,本尺度開発時における3因子構造とは異なる6因子構造が最適と判断した。6因子は,第1因子「社会的ネットワークを築き維持する能力」,第2因子「社会的サポートを提供する能力」,第3因子「自由に移動する能力」,第4因子「基本的なニーズを満たす能力」,第5因子「学び,成長し,意思決定をする能力」,第6因子「社会へ貢献する能力」と命名した。確証的因子分析の結果,全項目が対応する因子に0.3以上の因子負荷量を示し,モデルの適合度指標は,χ2(237)=58753.13,p<0.001,RMSEA=0.042,CFI=0.931,TLI=0.919,SRMR=0.040とそれぞれ良好な値を示した。クロンバックα係数は,尺度全体がα=0.801,第1因子がα=0.844,第2因子がα=0.528,第3因子がα=0.676,第4因子がα=0.683,第5因子がα=0.642,第6因子がα=0.624と許容可能な内的一貫性を示した。
結論 分析の結果,ヘルシーエイジングに向けた機能的能力尺度の交差妥当性が支持された。本研究が示した6因子構造は,WHOの提唱する機能的能力の5つの領域を包含しつつ,高齢者の特性をより詳細に反映していることが示唆された。本研究で検証された機能的能力尺度は,ヘルシーエイジングの概念をモニタリングする役割を果たし,高齢者の普遍的な幸福に向けた効果的な介入策と政策開発の促進に寄与することが期待される。
キーワード 機能的能力尺度,ヘルシーエイジング,交差妥当性,高齢者,因子分析