論文
第72巻第11号 2025年9月 高齢化と健康水準の地域格差について佐川 和彦(サガワ カズヒコ) |
目的 各年齢時点における健康水準の地域格差は,年齢が上がるにつれて拡大していくことが確認された。その理由を解明するため,各年齢時点における健康水準を決める要因について検証を行った。
方法 都道府県別パネルデータを用いて,Arellano and Bover/Blundell and Bondのシステム・ダイナミック・パネル推定を行った。被説明変数としたのは,20歳,40歳,65歳における男女それぞれの平均余命である。なお,変数によって公表間隔に違いがあるため,被説明変数が公表される年を基準とした。それ以外の説明変数について同じ年のデータが得られない場合には,2年以上離れることのないようにすり合わせを行った。
結果 ダイナミック・パネル・モデルの特徴であるラグ付きの被説明変数に対応するパラメータの推定結果から,現時点での平均余命が過去の平均余命の状態に依存して決まることが確認された。また,各年齢層の健診受診率に対応するパラメータの推定結果については,65歳では,男女とも符号はプラスであり,有意であった。さらに,40歳女性についても,符号はプラスであり,有意であった。よって,これらのケースでは,当該年齢時点での健診受診率が高い地域ほど,平均余命が延びる傾向があることが確認された。しかし,20歳男性については,符号はマイナスであり,有意となった。予想された符号条件とは逆の結果である。逆の因果性が生じていると解釈したほうがよい。すなわち,若くて健康であるがゆえに,健診の必要性を感じない人たちが多くいる。そのことが健診受診率を低下させるという解釈である。
結論 会社を退職した高齢者のなかには,職場での健診の機会を失い,受診をおっくうに感じる人もいるかもしれない。継続して健診を受診するように強く働きかける対策をとれば,健康格差が縮小していく可能性がある。また,若年のうちから,健康に対して高い意識をもっていれば,加齢にともなって健康水準の格差が広がっていくことを抑制できるであろう。地域や職場での健康教育をさらに充実していくことが求められる。
キーワード 高齢化,健康水準の地域格差,健診受診率,ダイナミック・パネル・モデル