論文
第72巻第11号 2025年9月 セルフ・ネグレクトの深刻度尺度の開発-健康,生命,社会生活を脅かすリスクの測定-小長谷 百絵(コナガヤ モモエ) 岸 恵美子(キシ エミコ) 今村 晴彦(イマムラ ハルヒコ) |
目的 セルフ・ネグレクトは「健康,生命および社会生活の維持に必要な個人衛生,住環境の衛生もしくは整備,または健康行動を放任・放棄していること」と定義される。孤立死や自殺念慮との関連も示され,生命・健康・安全が脅かされるリスクも高く,公衆衛生上の大きな課題である。本研究は,セルフ・ネグレクトの人の健康,生命,社会生活に影響する深刻度を測定する尺度開発を行った。
方法 既存のセルフ・ネグレクトの状態像34項目と,文献検討から健康,生命,社会生活を損なう暮らしへの影響要因を含む尺度案(41項目)を作成し,全国の地域包括支援センター5,271カ所に郵送調査を依頼した。尺度は回答の偏りや類似性のある項目を削除し,探索的因子分析により因子構造と因子数を検討し,得られた因子構造により確認的因子分析で構成概念妥当性を検討した。尺度の信頼性はCronbachのα係数を算出し,妥当性は,セルフ・ネグレクトの深刻度および孤立死との関連が示されている,性別,年代,同居者の有無,同居者以外との交流の頻度,認知症の有無,意欲(高/低),日常生活の活動能力(高/低)について,統計学的有意水準は5%として本尺度案との差をt検定により確認した。
結果 1,353カ所(有効回収率25.7%)から得られた502事例を分析対象とした。セルフ・ネグレクトの生命の危機に影響する【セルフケアの不足(個人衛生の悪化)(6項目)】【住環境の悪化(6項目)】【飲水や食事の形跡の欠如(3項目)】【社会サービスの拒否(3項目)】【社会からの孤立(2項目)】【ライフラインの停止(2項目)】全22項目が抽出された。確認的因子分析では,GFI=0.909,AGFI=0.881,RMSEA=0.056の適合度が得られた。Cronbachのα係数は全体では0.757であった。深刻度尺度案22項目の合計点は,男性,同居者なし,交流の頻度が月1,2回以下,認知症あり群,意欲低群,老研式活動能力指標の低群において有意に高かった。年代は,若年者と高齢者の間での有意な差は認めなかった。
結論 セルフ・ネグレクトの人の健康,生命,社会生活を脅かすセルフ・ネグレクトの深刻度尺度を開発し,十分な信頼性,妥当性を有すると確認できた。本尺度はセルフ・ネグレクトの人の意思を尊重しながら健康,生命,社会生活を守ることを優先したチームによるセルフ・ネグレクトの人への積極的な支援を判断する合意形成ツールとして活用が期待できる。
キーワード セルフ・ネグレクト,深刻度,孤立死,尺度,早期介入