論文
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第72巻第12号 2025年10月 愛媛県における心不全および老衰死亡率の推移斉藤 功(サイトウ イサオ) 入野 了士(イリノ サトシ) 淡野 寧彦(タンノ ヤスヒコ) |
目的 愛媛県では1995年から2005年にかけて心不全の年齢調整死亡率が増加した。その後,2005年を境に減少に転じたが,一方で老衰の年齢調整死亡率が大幅に増加した。本研究はこの両者の関連について分析を行ったので報告する。
方法 愛媛県における1995~2020年の5年ごとの人口動態統計を用いた。人口動態統計は,厚生労働省への目的外使用の申請を行い愛媛県の1995~2020年の5年ごとの死亡票ならびに2018~2020年の各年の心不全を原死因とする死亡個票の磁気データを取得した。その情報から原死因(ICD-10)コードにより,心不全(I50),老衰(R54)を抽出し,1995~2020年の愛媛県における心不全と老衰の年齢調整死亡率を平成27(2015)年のモデル人口を用い直接法により算出した。また,愛媛県の75歳以上の心不全と老衰による死亡率について年齢階級別に相関分析を行った。全国の心不全と老衰の年齢調整死亡率は公表済みの人口動態統計の集計表を用いた。さらに,愛媛県について死亡個票データより心不全死亡について発症から死亡までの時間の分布について検討した。
結果 愛媛県の心不全の年齢調整死亡率は男女とも1995年から2005年にかけて増加,その後は減少した。老衰の年齢調整死亡率は,心不全とは対照的に減少から増加へと変化した。年齢階級別に両者の死亡率の相関分析の結果,75~84歳,85~94歳の群において心不全と老衰死亡率の間に強い負の相関を認めた。74歳以下の心不全死亡のうち,発症から1時間未満ならびに1~24時間の死亡が約6割を占めた。また,75歳以上ではその割合は約5割を下回って減少し,24時間を超える死亡の割合が年齢とともに増える傾向にあった。
結論 75~84歳,85~94歳の群において心不全の死亡率と老衰の死亡率が関連していた。74歳以下の心不全の大半が発症から24時間以内の死亡であった。人口動態統計における心不全の動向の解釈には慎重な判断が求められる。
キーワード 人口動態統計,心不全,老衰,年齢調整死亡率







