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第72巻第12号 2025年10月 ロバスト重回帰モデルを用いた新型コロナウイルス感染症による死亡者数と救急搬送困難事例
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目的 新型コロナウイルス感染症流行時には,救急搬送困難事例が多く発生した。有効な治療薬が開発されるまでは,病状が悪化すれば救急搬送を行い対症療法を行うが,救急搬送困難事例数が増加すると死亡者数が増えると考えられる。しかしながら,両者の関連について,統計的に検証した結果はない。そのため,両者の関連性について解析するとともに,都道府県の救急搬送体制に関するアンケートを実施することで,新興感染症発生時に備えた救急搬送体制の整備の一助となることを目的とした。
方法 有効な治療薬が開発される前で,救急搬送困難事例が多く発生したデルタ株優勢時期(2021年7月から9月まで)における新型コロナウイルス感染症の死亡者数と救急搬送困難事例数との関連について,都道府県別データを人口10万人当たりに変換して検証した。救急車台数,新型コロナワクチン2回接種率,感染者数,65歳以上の人口割合を交絡因子と考え解析を実施したが,複数の変数に外れ値が認められたため,頑健なモデルを推定することのできるMM推定によるロバスト重回帰モデルを用いた。また,同時期および新興感染症発生時に備えた都道府県の救急搬送体制について,都道府県の感染症対策主管課に対してアンケートを送付した。
結果 解析の結果,都道府県別の死亡者数と救急搬送困難事例数との間に有意な正の関連が認められた。また,アンケートについては33自治体(70.2%)から回答があり,救急搬送体制の取り決めがあった自治体は17自治体(51.5%)であった。取り決め内容として最も多かった回答は,「入院先を保健所や本部で調整」であった。また,取り決めの有無別の人口10万人当たりの救急搬送困難事例数を比較したところ,取り決めがある自治体の中央値は0.36件(最小0件-最大3.12件),取り決めがない自治体の中央値は0.94件(最小0.02件-最大3.12件)であったものの,有意な差は認められなかった(p=0.21)。併せて,新興感染症発生時に備えて必要と思われる救急搬送体制の取り決めとして最も多い内容としては,「リアルタイムで空床確認できるシステムの構築」であった。
結論 新興感染症発生時の死亡者数を減らすためには,救急搬送困難事例数を減らす必要がある。そのための体制として,「リアルタイムで空床確認できるシステムの構築」などの救急搬送体制を整備する必要があると考えられた。
キーワード 救急搬送困難事例,救急搬送体制,新興感染症対策,ロバスト回帰モデル







