論文
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第72巻第12号 2025年10月 高年齢労働者の転倒災害における復職支援の実態松垣 竜太郎(マツガキ リュウタロウ) 尾﨑 文(オザキ アヤ) 伊藤 英明(イトウ ヒデアキ) |
目的 本研究の目的は転倒災害により休業した高年齢労働者への復職支援の実態について記述疫学的に検討することである。
方法 国内の従業員数1,000名以上の事業所3,131件を対象とした質問紙調査を実施した。調査項目は,過去3年間の高年齢労働者(60歳以上)の転倒災害の発生状況,転倒災害後の被災者の離職の有無とその理由,事業所で行われている復職支援の配慮や取り組みとした。調査は2024年1月に実施し,インターネット上の調査フォームを用いて回答を得た。分析では転倒災害後の被災者の離職の有無と,事業所で行われている配慮や取り組みとの関連を検討した。
結果 有効回答率は13.2%であった。回答事業所の44.0%が過去3年間に高年齢労働者の転倒災害を経験しており,そのうち48.9%(89/182)が休業4日以上の転倒災害であった。転倒災害後の被災者の離職を認めた事業所の割合は6.6%であり,離職の主な理由は「治療が遷延」(41.7%),「後遺障害が高度」(33.3%),「本人の復職希望なし」(33.3%)であった。転倒災害後の被災者の離職を認めた事業所では,認めなかった事業所と比較して,「医療機関との連携」(8.3%vs14.1%),「通院治療の配慮」(16.7%vs42.9%),「作業内容の変更」(25.0%vs47.1%)などの支援が実施されている割合が低い傾向にあった。
結論 本研究により,高年齢労働者の転倒災害後の離職がまれな事象ではないことが明らかとなった。また,離職の背景には医学的要因や職務関連要因が存在することが示された。高年齢労働者の転倒災害後の復職を促進するためには,事業所と医療機関の連携強化,治療と就労の両立支援の充実,さらに業務内容の柔軟な調整が可能な体制整備が重要であることが示唆された。今後は前向き研究により,転倒災害後の被災者の離職と関連する要因についてさらなる検討を行う必要がある。
キーワード 高年齢労働者,転倒災害,離職,復職支援







