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第72巻第12号 2025年10月 厚生労働省医療通訳育成カリキュラム基準準拠訓練の有用性と
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目的 近年,日本の医療機関では外国人患者が増加し,質の高い医療通訳者確保が急務である。本研究は,厚生労働省医療通訳育成カリキュラム基準準拠訓練の有用性と,医療通訳に関する今後の課題の検討を目的とした。
方法 通訳派遣団体等所属の現役医療通訳者・経験者を対象に,2023年2~5月にGoogle Formsによる質問紙調査を行い,回答の得られた109人(回答率4.0%)のうち,就業経験のない10人を除いた99人を解析対象とした。厚生労働省医療通訳育成カリキュラム基準準拠訓練(以下,準拠訓練)の有無と,学んだ専門知識の医療通訳現場における有用感ならびにストレスによる離職意向保有経験との関連について,性,年齢,活動地域,報酬満足度で調整した多変量ロジスティック回帰分析を用いて検討した。
結果 準拠訓練あり群に比べ,なし群の学んだ専門知識の医療通訳現場における有用感は有意に低かった(オッズ比[95%信頼区間]=3.84[1.19-13.9])。さらに,ストレスによる離職意向保有経験は統計的に有意ではないものの,準拠訓練なし群において高い傾向が示唆された(2.44[0.92-6.70])。これは女性のみ群においては統計的に有意に高かった(3.12[1.10-9.40])。ストレスコーピングに差はなかった。準拠訓練あり群においては,ストレスによる離職意向保有経験ありの理由として報酬に関するストレスと回答した者の割合が高かった。今後希望するトレーニングは,準拠訓練の有無にかかわらず通訳能力向上に関する内容の希望が多かったが,準拠訓練なし群は,あり群に比べて文化的訓練と医療用語・人体に関する訓練を希望する者の割合が高かった。
結論 準拠訓練あり群は,得られた専門知識が医療通訳現場で役立つと感じる機会が多かった。またストレスによる離職意向は低いが,報酬についての不満は高い傾向が示唆された。今後の質の高い医療通訳者確保のためには,①準拠訓練の普及,②通訳能力向上のためのトレーニングとストレスコーピング教育のさらなる充実,③準拠訓練を受けていない医療通訳者への医療用語・人体に関する知識と文化的訓練(医療通訳倫理,非言語・異文化コミュニケーション)の研修機会の提供,④医療通訳者の報酬と社会的地位の向上が有効である可能性がある。
キーワード 医療通訳,育成カリキュラム基準,カリキュラム準拠訓練,外国人患者,異文化コミュニケーション,報酬







