論文
第65巻第2号 2018年2月 中山間地域住民の食事・買い物の状況からみた
長谷 亮佑(ハセ リョウスケ) 山口 奈津(ヤマグチ ナツ) ホセイン マハブブ(ホセイン マハブブ) |
目的 わが国では急速な高齢化が進み,社会保障費の増大も続く中,できるだけ長く住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう地域包括ケアシステムの構築が目指されている。地域での生活を継続するためには,必要な条件が様々あるが,生活の中での日々の食事摂取は最も重要なものの一つで,そのための買い物も欠かせない。本研究の目的は,高齢化が進み,地区内に商店もない中山間地域住民の食事摂取と買い物の状況などを分析し,自宅生活継続のための方策を検討することである。
方法 山口県岩国市錦地域で,行政と関係機関などで構成される錦地域住民支援連携会議が主体となって,2012年11月から2015年3月までの間に3つの地区の計194人の住民に住民生活・健康調査が行われた。調査員の全戸訪問による聞き取りアンケート調査で,質問項目は,性別,年齢,職業,世帯構成といった基本的属性,食事の頻度や内容,買い物や交通手段といった日常生活の実態等であった。
結果 回答者の年齢の中央値は78(範囲29-101)歳で,高齢化率は87%であった。食事摂取状況は「毎日規則正しく食事を摂っている」が190人(98%),「困らない程度に食べている」が3人(2%),「食事が摂れずに困っている」が1人(1%)であった。13人の独居男性も含めた191人(98%)は自炊もしくは同居の家族が作る食事であった。主な買い物手段は自家用車・バイクが120人(62%)と最も多く,家族に依頼27人(14%),宅配サービス21人(11%),移動販売車10人(5%),路線バス8人(4%)であった。
結論 中山間地域の住民は,野菜を自給し,独居の高齢男性でも自炊するなど個々の生活能力が高いため,近くに商店や飲食店がなくても生活を継続できている。しかし,今以上に高齢化し,新たに要介護状態になる者も出てくる中で,中山間地域の住民の多くが他の地域に移転せざるを得なくなる可能性も考えられる。移動販売車や宅配サービス,配食サービスなどにより自宅生活が継続しやすくなるかもしれないが,今後もさらに人口減,高齢化が進む中山間地域では今ある民間サービスの継続さえ厳しいと思われる。一方で,地域調査や住民説明会をきっかけに,住民ボランティアの助け合い組織が活性化したり,解散していた老人会が復活したりしており,地域住民が自ら地域課題に取り組む動きが出てきている。その中で,車の乗り合わせを地域内でさらに促進するなど,住民の互助を促進するような取り組みが活発になることを期待したい。
キーワード 地域包括ケアシステム,中山間地域,食事摂取,買い物,互助